氷点下の激情・結


 どうして逃げないのか、と問われても困る。
 逃げられないわけではないと思う。逃げたくない、のかもしれない。

 好きだとか嫌いだとか、難しすぎて自分にはよく分からないけれど、たぶんきっとおそらく。
 彼のことは嫌いではないと思う。
 好きか、と聞かれたら首を傾げるけれど。それはどうせ彼も同じで、自分など各町にいる一晩限りの酒場のおねいさんと同列だろう。違いがあるとすればこちらは一晩限りでなかったというだけで。


 触れられることは嫌ではない、と思う。伸びてくる腕を振り解こうとも思わない。
 落とされる唇も嫌ではない、と思う。顔をそむけて避けようとも思わない。


 エイトは自分がどこか人と違うことを知っていた。どこか自分がおかしいことを知っていた。

 その所為で不必要に他人を傷つけることがあることも気付いていたし、だからこそそれを少なくしようと努力もしてきたつもりだ。周囲を観察し、できるだけ周りと合う反応を。
 けれどどれほど努力したところでそれが報われるとは限らないもので。
 結果的に傷つけてしまうことも多くあり、今回はその報いが手痛い仕方で自分に返ってきただけだ、そう思っていた。事実、始めのあの行為に関してはそうだったのだと思う。


 じゃあ、今行われているこれはいったい何なのだろうか。これもまた、エイトがどこかで間違えてしまったためこんなことになっているのだろうか。



 どうして逃げないのか、と問われても困る。
 イヤなの、と問われても困る、本当に困る。
 それを聞きたいのは自分の方なのだ。


 けれど、一つだけ確かなことがあった。
 先ほど彼の口から零れた言葉で、ほとんど独り言のようだったから思わず呟いてしまっただけだと思うけれど、思わず頷いてしまいたくなるほど今の状況に対して適切な言葉。


 なんか面倒くさくなってきた。


 考えるのも、理由を探すのも、何もかもが。
 面倒くさくなってきた。

 だからもういいや、と、行為を続けるククールへ言ったら「そんな投げやりな」と怒られそうなことを思いながら、エイトはただ触れてくる暖かい手だとか唇だとかをぼんやりと感じるだけだった。


 ああでも、あれだ、うん。


 さらりと零れる銀髪へ目をやりながらエイトは思う。




 こいつの綺麗な髪とか、青い目とかを近くで見れるのは嬉しいかもしれない。





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2005.02.04








ごめんなさい、ずいぶんと曖昧なままですが一応これでおしまいです。
うちのエイトさんとククールさんは互いに恋愛感情はないけれど、考えるのが面倒くさくてなんとなくずるずると体の関係がある、という素晴らしくだらしない二人でございます。
それに至る過程を一度書いておきたかったのです。
小具之介はシリアスと長編を書いちゃダメだと身に染みました。