キミの笑顔 ― monochrome ― 0


 恋とは落ちるものではなく、堕ちるもの。
 気が付いたときには既に取り返しがつかないところにまで来てしまっていた。まさか、と自分でも思う。一夜限りの相手を数えれば両の手の指では足りず、顔も名前もうろ覚えの人間さえいる。
 そんな自分がたった一人の年下の、しかも同性に本気で惚れるなど。
 ありえない、とそう思う。
 気のせい、勘違い、錯覚、そう思い込もうとしてそのたびに失敗して、あれだけカードで他人を騙してきたのに、自分一人さえ騙せないのか、と笑いすらこみ上げてくる。
 なんて滑稽で、なんて無様。
 己の情けなさをそう自覚したと同時に、己を騙し、誤魔化すのを諦めた。
 かといって表に出せる感情でもなく、受け入れてもらえるとも思えない。たわいない会話と軽い触れ合い、ふわり、と浮かべられる笑顔。それだけで十分だ、と思うことができるのだから、大概末期だ。

 愛にだって種類がある。
 恋人として、生涯唯一のパートナとして愛し、愛されることができないのなら、せめて。
 それ以外の愛を。
 兄姉が弟妹に抱くような家族愛を。親友へ抱くような友情を。ともに旅をする仲間としての愛を。パーティを纏め上げるリーダへの尊敬に基づく愛を。
 すべて注ごう、そう思った。




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2008.04.11