3 on 3 ・2 方向性は決まった。次に考えるべきは。 「三人一組なら二チームできるな」 くるり、と五人の顔を見回してユーリは腰に手を当てて口にする。願い事が叶うのは優勝した一チームだけ。それならば可能性は増やせるだけ増やしておいた方がいい。 「どう分かれようか」 「はないちもんめで決めよう!」 「それは組み分けになんねぇだろうが」 「じゃあ組み分け帽子をかぶる!」 「今すぐ歌う帽子を持ってこい」 腕を組んで首を傾げたフレンの前で、元気よくあげられたエイトの両腕をククールが遠慮なく引き下げる。「どうするよ」とレッシンが側にいるリウへ視線を向け、ひょろりとした彼は「うーん」と集まったメンツを見回した。 「とりあえずみんな戦えるだろうことは分かる。実際の戦闘を見たわけじゃないから憶測も交えた意見になるけど、まず、オレとククールさんは別チーム。レッシンとエイトさんも別チーム」 挙げた名前の人物を順番に指さしながらそう口にする。途中「『さん』づけ止めて、ぞわってする」と眉を顰めたエイトに頷いて答え、リウは言葉を続けた。 「オレはまあこのなり見てもらったら分かると思うけど、術メインなんだよ。で、ククールさんも一応剣は持ってるけどパワータイプじゃない。バランスを考えるなら分かれた方がいい。残りの四人は力で押し切れるタイプだと思うけど、エイトは術が使えるよな?」 尋ねられてエイトは「少しだけ」と答える。エイトが彼の持つ妙な力の波動を感じ取れるように、リウもまた何らかの力を感じているのかもしれない。 「レッシンもあまり強くはないけど使える。だから二人は分かれた方がいい。そうなると必然的にユーリさんとフレンさんにも分かれて貰うことになるけど、タイプ的に似てると思うから問題はないんじゃねーかな」 短い間にただ軽く会話を交わしただけでそこまで分析していたリウに、「お前、すげぇな」と驚いたようにユーリが目を見張る。もちろんユーリも体格や所持品、身体の動きでそれなりに判断はできるが、そうしようと思って見なければ難しいだろう。これはつまり、リウが常日頃からそういう判断を要する立場にいる、ということ。 「まあ、一応戦闘より戦術担当がメインだからね、オレ」 少し照れたように笑って言うリウの隣で、「すげぇだろ、オレのリウは!」と何故だかレッシンが胸を張った。 「なんつってもうちの団の参謀だからな!」 「参謀! なんかかっけぇ! すごい、俺もなりたい!」 「絶対無理」 言葉の響きだけで目を輝かせ、ククールの袖を引いてエイトが希望するも、きっぱりと却下された。つい先ほど出会ったばかりだというのに、「ああ、エイトにゃ無理だな、オレもだけど」とユーリがくつくつと笑っている。 それで結局どうしようか、と面々をフレンが見回したところで、「このチームでいいんじゃね?」とユーリはエイトの頭に手を置き、リウの細い肩を抱き寄せた。 「初っ端に顔を合わせたのも何かの縁だろうし、それに、ほら、役割的にこの分かれ方だろ?」 にやり、と笑みを浮かべたユーリの言葉を、すぐに理解できたものはいない。しばらく考えたのち、「あー、」とククールが声を上げた。 「なるほど、そういうことか。じゃあユーリはそっち側、ってことなんだな」 「まあな」 「へぇ。でもまああんた美人だし、それもありか」 喉の奥で笑う銀髪の青年の言葉に、もしかして、とフレンもなんとなく察したらしい。ククールとエイト、レッシンとリウをそれぞれ見やって僅かに頬を赤らめている。 エイト、ユーリ、リウの三人と、ククール、フレン、レッシンの三人。これならば先ほどリウが口にした条件にも合い、何より別々の場所から飛ばされてきた二人組が綺麗にそれぞれに分かれることができている。特に異論も出ないまま、この組み合わせで闘技大会への参加登録を行うことになった。 大会自体はいたってシンプルなトーナメント方式。参加表明をしたチームの数にもよるが、大体が五戦程度で決勝戦に進めるらしい。トーナメント表のどこに名を書くか自分たちで選べるため、とりあえずそれぞれ決勝でなければ当たらない位置に登録することにしておいた。 「っしゃ、妥当赤カリスマ! 見てろ、吠え面かかせてやんよ」 びしっ、とこちらを指さして宣言するエイトの頭に、「お前は清々しいほど目的を忘れてるな」とククールのチョップが綺麗に決まった。 「でもまあ、フレンとやり合えるってのは、楽しみは楽しみかな」 「チーム戦だけどね、これはこれで面白そうだ。お手柔らかに頼むよ」 「冗談! お前相手に手なんか抜いてみろ、そっこでボコられるだろ」 そんなククールとエイトのやり取りを見ながらユーリが口にし、笑みを浮かべたフレンがそう答える。もともと何につけても競い合い、剣を交えてきた二人だ。どのような状況であろうと、半身と戦うことができるのは純粋に嬉しく、楽しいだろうと思う。 「レッシン、無茶だけはすんなよ?」 「分かってるって。リウもな、頑張れよ!」 「お、おう。オレ、戦うの嫌いなんだけどなー……」 ばし、とレッシンに肩を叩かれ、よろけたリウは眉を下げてそう返した。避けられない戦闘ならばいざ知らず、わざわざ闘技大会に出てまで人と争うなど、リウの性格からすれば楽しめるものでもない。幸いユーリとエイトがそれなりにやる気があるようなので、彼らの邪魔にならないようサポート役に徹しよう、とリウは小さく頷いた。 「それで結局、なんでこのチーム分け?」 参加登録をしたチームは控室にてその出番を待たなければならない。ブロックごとに部屋が分かれているため、もう片方のチームとは別行動。三人揃って案内された部屋で待っている間、思い出したかのようにエイトがユーリへ尋ねた。 「あ、それオレも気になってた。役割ってなんの?」 首を傾げたリウとエイトを見やり、ユーリはふ、と口元を緩め、「夜の」と端的に答える。 「……夜? 夜の役割って何。晩ご飯係とか決めてたかな」 益々首を傾けたエイトの側で、リウはようやくユーリが何を言っているのか気がついたらしい。「え、あ、」と顔を真っ赤にしてユーリとエイトを交互に見やる。 「えぇええっ!?」 「もっと詳しく言えば、夜、ベッドの上での役割。これなら分かるか?」 奇声を上げたリウを無視して更にユーリは言葉を続け、「あー……」とエイトが気の抜けたような声を漏らした。 「ナルホド。うん、分かった。理解した。否定はしないけど、あの間にそれを見抜けるユーリが怖ぇ」 「そうか? 見てりゃ分かるだろ。レッシンはどう見てもリウにべったりだったし、ククールも何かとお前を気にしてたしな」 「や、それは、うん、フレンさんとユーリさんもそうなのかな、とは思ったけど、でも……」 互いに相手を大切に思っているということはリウにも読み取れた。しかし、それをそのまま夜のベッドでの役割まで移行させて考えるなど、できるはずもない。しかもユーリの推測が当たっているのだから尚更怖い。 「え? あれ? 役割、ってことは、リウは何となく分かるけど、ユーリも?」 「ちょっと待って、分かるってなに? 何で分かるの!?」 エイトの言葉にリウが半分涙目になって異論を申し立てているが、「だってそれっぽい」と一言で片づけられてしまった。がっくりと項垂れたリウの頭を撫でながら、「そう、オレも」とユーリは笑みを浮かべる。 「……ああ、だからさっきククール、『それもありか』って言ってたのか……」 気をつけて、あの男狼だから、と至極真面目な顔をしてエイトはユーリへと忠告した。 「歩けば女ひっかけてくるようなヤツだし」 「まあそれっぽい顔してたな。動きもスマートだったし、あんだけ男前なら別にオレは構わねぇけど」 うちの旦那が許しちゃくれねぇだろうよ、とユーリはくつくつと笑う。 「あー、うん、フレンさん、そんな感じ……」 ユーリの言葉にリウがそう呟いて同意を示した。 穏やかだけれど隙がない。周囲をよく見ているようで、本質的に彼はユーリのことしか意識していないような、そんな雰囲気があった。あまり敵に回したくないタイプだな、とそう思ったのだ。 「リウんとこもそうじゃね? レッシン、相当お前のこと好きだろ」 あの少年もまた、ベクトルがひたすら真っ直ぐにリウへ向かっているように見えた。まだ精神的に幼いせいか、それを隠そうともしないあたりが見ていて微笑ましい。 「好き、っていうか……」 どうもリウはこういう話題には慣れていないらしい。頬を赤らめてごにょごにょと口を動かす少年を見やり、「お前、可愛いなぁ」とユーリは笑う。 「どうよ、折角同じような面子が揃ってんだ、どうせもう会うこともないだろうし、愚痴くらいなら聞くぜ?」 おにーさんに話してみろよ、と明らかに面白がっている顔で言うユーリを睨んだ後、リウは大きくため息をついた。 ←1へ・3へ→ ↑トップへ 2010.11.02
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