双子の弟ではあるけれど、燐はそういう意味で雪男のことが好きなのだ。もちろんそのようなこと正直に言えるはずもない。ただでさえ燐と雪男の関係は危ういバランスで成り立っているのだ。今のように話をしてもらえるだけでも十分だと思っている。もしかしたらそのうち、話をすることさえできなくなってしまうかもしれない。燐の存在に嫌気がさし、どこか遠くへ行ってしまうかもしれない。そう考えるだけでぞっとしたものを覚えるが、たとえ本人がどう思おうと雪男が燐の弟であるという事実は変わらない。それはつまり、何がどうなろうと、燐は雪男を守らなければならない、ということだ。 「……状況が分からないな。兄さん、何か分かる?」 くるりと周囲を見回しているようだが、その雪男の仕草すら燐にもよく見えていない。それほど暗い場所なのだ。手を伸ばして見ればごつごつとした冷たい何かに行き当たる。 「岩? 洞窟?」 どこかじっとりとした空気にそんな推測がくちから出た。以前海の神を祀ったときにいた空間に似ているような気もしなくもない。あの洞窟でも自分たちはケンカをしていたっけ。 燐の呟きに「それっぽいところだとは思う」と弟もまた賛同を示した。 「僕、ここに来る前、どこで何をしてたのか全然思い出せないんだけど、兄さんは?」 「あー……いや、俺もだ。んー……学校にいた? 制服、だけど」 「僕は祓魔のコート着てるから、どこかで任務だったのかな」 もしそうであれば、雪男がここにいるのも悪魔からの攻撃の一種ということが考えられる。しかしそれならば燐が一緒にいる理由が分からない。首を傾げる雪男に倣って、燐もまたこてん、と頭を傾けた。そもそも雪男に分からないようなことがらを、燐が分かるはずもない。昔から、考えるのは弟の役目と燐のなかでは決まっているのだ。 しかしその雪男ですら、現状をうまく説明できないようだ。手に入れている情報が少なすぎるのかもしれない。あまりにも周囲が薄暗いのも原因の一つだろう。せめて明かりがあれば、と思い、はたと頭を上げた。あるではないか、明かりが。なんの道具も必要とせず、燐がここにいるだけで灯る明かりが。 問題は、炎を出して雪男が嫌な顔をしないかどうか、という点だ。厭われ、恐れられることに慣れているとはいえ、弟からそのような視線を向けられて平気でいられるほど燐の心臓は強くない。燐が思いついた方法なのだ、雪男だってきっととっくに思いついているはず。それなのに、「兄さんちょっと炎出してよ」と言わないということは、やはりそれに頼りたくない、ということなのではないだろうか。 かといってこのままでは埒があかないのも事実。 しばらく悩んだ末、燐は、
2019.04.01
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