勇者とカリスマの湖の冒険 |
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ひとまず探索者たちは、自分の名前を思い出そうと試みた。 ここはどこだだとか、正面に立っている男は誰だだとか、気になることはいろいろあるが、まずは自分のことが分からなければどうしようもない。 そう考えて記憶を探るも、なかなかピンとくるものが浮かんでこなかった。ぞ、と背筋が震え上がる。この恐怖を自分は知っている、そんな気がした。考えても考えても自分が誰だか分からない、ここがどこだか分からない、いやあのときはそもそも『考える』ということすらできなかった、ような気がする。ただ怖くて。とにかく怖くて。何が、と問われたら世界がと答える。空と大地、己を挟み込むそれらのあてどない広さがただただ怖くて、怖くて、怖くて。 その恐怖はいまだ自分の内側に巣くっているのが分かる。きっとこれは消えることがないのだろう。そんな不安定な状態で生きてくることができたのは、支えてくれるひとたちがいたからだ。泣いていた自分に手を差し伸べてくれたひと、居場所を与えてくれたひと。うっすらとぼやけた輪郭が頭のなかに浮かび上がる。彼らはなんと、呼んでくれていたのだっけ。自分のことを、『―――』と。そう、確か、
2019.04.01
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