「隠れる場所のない湖より森の中のほうがまだ安全に探索できる気がする」

 そうククールが主張するため、ボートは一旦忘れ、森へと入ってみることにした。といっても、闇雲に歩き回って遭難、などということになれば洒落にならない。拠点を小屋と定め、まずはそこから離れすぎないようにぐるりと巡ってみる。
 ひとの手が入っている様子はなく、不思議なことに生き物の気配もない。鳥や小動物がいないのはこちらを警戒して姿を隠しているからだ、と考えてもいいが、蜘蛛や蟻のような虫すらいる様子が窺えない。死の森、という言葉が脳内を巡る。

「あの木の実、食えると思うか?」
「……見た目はいけそうだけどな」

 しかし一方植物は生い茂っており、見たことのない果実をつけている木を幾本も見つけることができた。最悪あれらを食いつなげばしばらくは耐えられるかもしれない。
 いつでも戻ることができるよう木に印を付けながら進んでいれば、先で森が途切れていることに気がつく。開けた場所に出るようだ。木々の隙間からきらきらときらめいている何かが見える。そのゆらめきに既視感と嫌な予感を覚えながら進んだふたりの前に現れたものは、向こう岸がかろうじて見えるほどの広さの大きな湖であった。岸辺には一艘のボートがくくりつけられており、その近くに木で作られた簡素な小屋がある。
 うぅん、と唸りながらボートと小屋を調べ、先ほど見たものと寸分違わない、ということを確認したのち、今度は印をたどりながら元へ戻ろうと試みた。同じほどの時間をかけてたどりついた先にはやはり湖とボート、木の小屋がある。
 それからさらに時間をかけて分かったことは、どの方向に進もうとも結局小屋のある湖に戻ってくる、ということだった。同じ湖、同じ小屋、同じボートがたくさんある森なのでは、と一応主張するだけしてみたが、目印に、とククールの髪をとめていたリボンをボートを繋ぐロープに巻き付けておいたが、どの湖にたどり着いてもリボンはロープに巻き付いたままだった。

「どうするよ」

 疲れ切った声で相棒に尋ねられ、エイトはがりがりと頭を掻く。


やはりボートに乗って湖を渡ってみることにした。

それでもやっぱり、ボートから視線を逸らせた。





2019.04.01
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