記念企画のクロスオーバー「3 on 3」の流れを組みつつ、青エクは「双子の悪魔、悪魔の双子」のふたりという設定です。 ハロウィン・パーティー 前 いろいろと詳しい経緯はすべて省く。巻き込まれ体質の苦労人カリスマが言うには、「何か起こったら全部エイトのせい」らしいため、とりあえずはた迷惑な少年リーダのせいである、と思っていただければいい。 気がつけば、見知らぬ部屋に着た覚えのない服で放り込まれていた。え、と思う間もなくぼんやりと記憶に残っている顔を見つけ「あー!」とそれぞれが声を上げる。 「うわぁ、また変なとこ来ちゃったよ」 あと何この格好、と泣きそうな顔をして口にしたのは、若草色の髪をした痩せた少年軍師、リウ。彼が纏う服は明るいオレンジ色のノースリーブワンピースで、胸元には黒い布で顔が、襟元には緑の布でへたがあしらってある。膝上の裾がきゅ、と絞られており、脇からその裾に掛けて少し膨らんだシルエット、つまりジャック・オ・ランタンを模したデザインのワンピースである。 「知ってる顔があるだけマシじゃね?」 リウの隣であっけらかんとそう言い放ったのは、軍師が従う団長、レッシンだ。上半身は右が青左が赤、下半身はその逆という派手な衣装である彼は、先が二股に分かれた帽子を被り、頬には涙マーク。トランプのジョーカーによく描かれているピエロ、いわゆるジェスターの衣装だ。「似合ってんな、レッシン」とリウに言われ満更でもなさそうだった。 「にゃーん! にゃにゃにゃん! にゃん!」 テンションの高い残念な発言は、言わずと知れた脳足りん近衛兵、エイトのもの。もこもこした生地のノースリーブシャツに尻の部分に尾のついた黒いショートパンツ。首にはオレンジ色の首輪、頭の上には猫耳のついたカチューシャを乗せている。可愛らしい黒猫の仮装であるが、己が今纏っている衣装そのものはどうでもいいらしい。とにかく両手にはめている猫の手を模した手袋がことのほか気に入っているようで、手のひらについている肉球を隣に立つ人物へ嬉しそうに見せつけていた。 「分かった分かった、うっせぇからちょっと黙ってろ」 そんな少年を宥めているのは、黒い眼帯で左目を隠した銀髪の青年。つばの広い帽子に、金で縁取りのしてある裾の長い赤いジャケット。その下には喉元と袖部分にふんだんにフリルがあしらわれているシャツを纏っており、腰に佩く刀は三日月の形をしていた。分かりやすく海賊の姿である。 「相変わらず全力でバカだな」 エイトのはしゃぎっぷりを見やってそう言葉を発したのは、黒い三角帽を頭に乗せ箒を手にする妖艶な美女、ではなく魔女に扮した青年、ユーリ・ローウェルだ。胸元がV字にあいた黒いワンピースで、スカートは足首まで長さのあるタイトなデザイン。しかし右太ももの半ばからスリットが入っており、そこから伸びる足は黒の網タイツに包まれているのが見える。「それは反則だろう」とユーリの格好を見たククールが思わずツッコミを入れ、黒猫エイトも「違和感ねぇのが怖い」としみじみと呟いていた。 そんな魔女の隣には、全身真っ黒の死神の姿。袖口が長く、足首まで丈のあるローブ。腰部分を麻縄で縛り、フードで頭を覆っている。衣装自体はやはりユーリと同じように飾りのないものだったが、手にしている大きな鎌と顔に当ててられたドクロのお面がかなり怖かった。 「もしかしなくてもフレン、だよな?」 確認するように尋ねたレッシンへ、「そうだよ、ひさしぶりだね」と面を外したそこには、覚えのある金髪碧眼の青年の顔があった。 ここまでの面々は、以前これまた何がどうなってそうなったのか分からないまま引き合わされ、騒動に巻き込まれ、何がどうなったのか分からないまま別れた過去があるため顔見知りといえば顔見知りだ。 しかし今回はもうふたりほど、異常事態に入り込んでしまった被害者がいる。 「……とりあえず、泣いていいか」 己の着ている服を見て、呆然とそう呟いたのは、黒髪に青い瞳を持つ少年。尖った耳の先まで赤く染め、膝上の短いスカートを引っ張って伸ばそうとしている彼は、ゴシック風のミニドレスを纏っていた。赤いペチコートを重ねふわりと広がるスカートの裾から黒い尾が伸びている。チューブトップデザインの背中には蝙蝠の羽を模した翼があり、頭の上には小さな角の乗ったカチューシャ。 「小悪魔、ってところか」 まじまじと少年の姿を眺めたユーリがそう結論づけたところで、「ゆきおぉ、にーちゃん、恥ずかしくて死ねる」と彼は隣に立つ青年に抱きついてその胸に顔を埋めた。 ため息をついて肩を抱いた眼鏡の彼は、今口にされた言葉から少年の弟、ということなのだろうか。袖が軽く絞ってある白いシャツに金ボタンの並んだ黒のベスト。裏地の赤い、襟の立った黒いマント。手にはシルクハットを持っており何かの仮装だということは分かるが、具体的に何かが一見では分からない。 「あ、吸血鬼?」 ちらり、と口の端から覗いた牙に気がついたリウがそう声を上げれば、「そうかもしれませんね」と青年は言う。 「まあこの牙は自前ですが」 あっさりと吐き出された言葉にえ? とみなが首を傾げたところで、「僕たち、悪魔ですから」と突然少年ふたりの身体を青い炎が包んだ。 驚いて思わず身構えたのは、それぞれが普段戦闘の中に身を置いているからだろう。その反応を見て悪魔だと言った青年もまた更に警戒を強め、表情を険しくしてほかの面子を睨みつけたところで。 「バカかお前はっ!」 そう言って弟の胸に頭突きをかましたのは、恥ずかしいと顔を隠していた彼の兄だった。 「急にこんなもん見せられたら、誰だってびっくりするだろっ! 何だってそんな喧嘩腰なんだよ」 伸ばした手でぺちん、と弟の額を叩き、「えーっとうちの弟がごめん」とこちらに向き直って謝罪を口にする。その頃には彼らを取り巻いていた青い炎はほとんど勢いをなくし、今は二人の頭の上と、ゴシックドレスの裾から伸びる尾の先に灯っている程度だ。 「確かに俺ら悪魔だけど、別に悪ぃことしてるわけでもねぇし、するつもりもねぇから!」 必死にそう弁明をする少年を前に、一番始めに警戒を解いたのは黒猫エイト。どこかに切り替えスイッチでもあるのではないかと思うほどころりと表情を変え、ぽてぽてと小悪魔のそばに歩み寄る。 「もしかしてこの尻尾も自前?」 しゃがみ込んで尾に手を伸ばそうとするバカを前に、スカートの裾を押さえながらも「お、おう」と答えてくれる彼はかなりいいひとなのだろう。(悪魔にいいひとという表現もおかしな気はするが。)その答えに「すげぇ!」とエイトは目を輝かせた。 「え、マジで自分の? それ、動かせんの?」 そう言って近寄ってきたのは好奇心の塊であるような少年、レッシンだった。多少の警戒を残しながら後を追うようにリウもまた歩を踏み出す。賞賛され悪い気はしないのか、動かせるぞ、と少年は少し照れたように笑った。 そんな彼らの姿を前に構えていたことが馬鹿らしくなり、ほかのものたちも一斉にそれぞれの肩の力を抜く。 「君たち、名前は?」 そもそも明らかに自分たちよりも年下に見えるのだ。子供を相手に身構えていても仕方がない。柔らかく口元を緩めてフレンが尋ねれば、「燐」「……雪男です」と返ってきた。 「急にこんなところに飛ばされて驚くのも分かるけど、僕たちに敵意がないことを理解してもらえたら嬉しい」 「……こちらこそすみません」 爽やかな笑みを浮かべてそう言うフレン(死神)をどう思ったのか、雪男と名乗った眼鏡の青年は意外にも素直に頭を下げる。そんな彼のそばでは、「つーかそもそもこのカッコ何なの」「みんな変なカッコだよな」「俺のに比べたらどれもまだマシだろ」「リン、似合ってんじゃん、それ」とあっさり打ち解けた四人がしゃがみ込んだまま会話を交わしていた。 「時期とこの格好考えたらまあ、ハロウィンだろうな」 「子供が仮装するものだとばかり思ってたけどね」 「つか、だったら菓子どこだ、菓子」 ククールの推測に同意を示しながらフレンが口を開く。ハロウィンにお菓子はつきものだろう、と不満を口にするのは仲間内でこっそり甘味大王と呼ばれているユーリだ。それに答えたのは、どうにかして現状を打開できないか、と部屋を見て回っていた雪男。 「自分で作れ、ってことじゃないですか?」 彼がいる場所は広い部屋の右端にあった立派なキッチンの中。十分すぎるほど揃った材料を前に、「おお!」と嬉しそうな声を上げたのは燐だった。 「これ、食っていいのか?」 「いいんじゃない? 迷惑料ってことで好きなだけ使わせてもらったら」 ぱたぱたと尻尾を揺らして弟に許可を求める燐へ、雪男は投げやり気味にそう答える。やりぃ、と指を鳴らして早速何を作ろうか、冷蔵庫の中を吟味している燐の後ろに立つ人物がひとり。 「あんまりはしゃぐとパンツ、見えるぞ」 そう忠告され、顔を赤くしてスカートを押さえる姿に「かわいいなぁ、お前」とユーリが笑った。 「リン、料理好きなのか」 「おう! 得意だぞ」 「そっか。オレも少しはできるから、手伝わせてもらっていいか?」 料理好きであるユーリもまた、このキッチンと材料を前に何か作りたくなってきたらしい。もちろん、と頷いてくれた燐に笑みを浮かべ、ダイニングに残っていた面々へ視線を向ける。 「つーことで、できるまで邪魔すんなよ。特にフレン、お前は絶対こっちに来んな」 ずびし、と名指しでそう命じられ、黒いローブの死神は「失礼だな、君は」と頬を膨らませた。 超絶に美人な魔女と、可愛らしい小悪魔が揃ってキッチンに立ち料理をしている。カウンタ席が設けてある対面式のキッチンであるためその様子をしっかりと見ることができ、「壮絶な光景だな」と銀髪の海賊が思わずといったように呟いた。 料理が完成するまでどうやって暇をつぶしていようか、とみなが悩んだのも一瞬のこと、「いいもの見つけた!」とエイトが壁際に設置された棚から引っ張りだしたものはチェスやトランプといったゲーム一式。大人数でできるゲームならば、と慣れた手つきでククールがトランプを切る。 「誰だよ、スペードの8とめてる性格悪ぃやつ!」 「そういうゲームじゃねぇか」 「あれ? ジョーカーありルールですか?」 「オレ、パス」 「必殺、鳳凰の舞!」 「……エイト、それ出せないよ」 ぎゃいぎゃいと聞こえてくる声から察するに7ならべを行っているらしい。どうしたら7ならべで『鳳凰の舞』なるものができるのか、疑問には思ったが、口にした人物が人物であるため深く考えないでおく。思考を切り替えて、ユーリは鼻歌交じりに包丁を振るう小悪魔へ視線を向けた。 「得意っつーだけあって、手際いいな」 思ったままを口にすれば、燐は照れたような笑みを浮かべる。 「メイン、そっちに任せていいか?」 「おう。えっと、」 何か言い淀んでいる顔を見やり、ふとまだ自己紹介すらしていなかったのではないか、と思い当った。彼らの名を聞いただけで終わってしまっていたため、「ユーリ・ローウェル。ユーリでいいぞ」と名乗っておく。 「じゃあ、ユーリ。ユーリは何作るんだ?」 「ん? そうだなぁ、とりあえずカボチャのパイと、あとはガキどものために甘いもんかな」 ここにフレンがいれば、「ただ君が食べたいだけだよね、甘いもの」と的確なツッコミを入れてくれただろうが、生憎とダイニングでトランプと格闘中である。ユーリの好物を知らない燐は「俺、菓子系はあんまり作ったことねぇから任せる」と笑って言った。 最近食べて美味しかったものは何だとか、お気に入りの調味料だとか、料理好きならではの会話を繰り広げながらてきぱきと作業をしていたところで、「ユーリィ!」という声と共にぱたぱたと走り寄ってきた人物がひとり。 「聞いて聞いて聞いて! リウってなぁ!」 黒猫の扮装をしたお騒がせ少年が、キッチンの向かい側にあるカウンタにばん、と手をついて叫んだ。 「ドMなんだってさ!」 「ちげぇっ!!」 なんてこと言ってんだアホ! と追いかけてきたカボチャ姿のリウがエイトの口を後ろから塞ぐ。 「違うからな!?」 「えもらっれれっしんふぁっ」 「あのバカの言うこと信じんな!」 頼むから、とそう言うリウは頬を赤く染め、目にはうっすらと涙まで溜まっている。どんな会話の果てでそういう話題になったのかは分からないが、向こうにいなくて良かった、と思うべきか。 「……ええと、とりあえず、そろそろ離してやったほうがいいんじゃね?」 ふたりのテンションについていけず、ただ黙ってやりとりを見ているだけだった燐が恐る恐るそう口を出す。さすがにずっと塞がれていては息苦しかろう、と思っての言葉だったが、次の瞬間「ぎゃあっ!」とリウが悲鳴を上げて手を離した。 「舐めんな!」 どうやら手のひらを舐められたらしい。ばか、と罵りながらすぱん、とエイトの頭を殴るが、殴られた方はまったく気にすることなくけらけらと笑っている。 「ああほら、リウ、少し落ち着け。茶、入れてやっから」 苦笑したユーリに勧められるままリウはカウンタ席に腰掛けた。そんな少年の前にお茶の入ったグラスを置いた魔女は、「まあ、性癖はひとそれぞれだから」と口元を歪める。 「…………もうやだ、みんなきらいだ……」 テーブルに伏せってしくしくと泣き始めたリウの隣へ腰かけ、「元気出せよ」と元凶が励ましの言葉を口にした。 中へ→ ↑トップへ 2011.10.17
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