ハロウィン・パーティー 中 そんなふたりを見ながら「おもしろい奴らだな」と笑っている燐へ、「こっちのカボチャがリウで、そっちの黒猫がエイトな」とユーリが紹介を口にする。ついでに向こうのテーブルで未だゲームに興じているメンバの名を教えたあと、「たぶんこいつもオレら側だぞ」とリウたちに向かって燐を指さした。 「俺らって、」 ユーリの指すメンバは彼自身にリウ、エイトを加えた三人だろう。以前顔を合わせた際、このメンバでチームを組んだ覚えはあるが、あの時も「この組み合わせだろ」とユーリが意味ありげにふたりを引き込んだのだ。その理由を後で問うたのだが。 顔を上げて燐を見つめ、振り返って(おそらく)雪男を見やり、そして再び視線を戻したリウが「あー……」と気の抜けたような声を零した。その隣ではエイトもまたユーリの言いたいことを理解し、「相変わらずユーリが怖ぇ」と、察しの良すぎる男へ呆れを見せる。 「? 何の話だ?」 ひとり話題に乗り遅れている燐がそう疑問を口にすれば、「ん、だからほら、ユキってあれだろ、お前のカレシだろ?」とユーリは何でもないことのように言った。 「か、かれ、しっ!?」 「あれ、違ったか?」 恋人じゃなかったのか、と首を傾げれば、燐は「いっ、や、そ、うといえば、そう、だけど……」と顔を赤くして俯いてしまった。微笑ましい反応だなぁ、と思っていたところで、「あれ? でも、」とリウが口を開く。 「兄弟って言ってなかったっけ?」 彼らの先ほどの会話からすれば、確か燐が兄で雪男が弟だといっていたはずだが。リウの言葉に燐は、分かりやすく顔を青ざめさせた。 「や、やっぱり、その、兄弟でそういうの、って、引く、か……?」 恐る恐る問いかけられ、三人はそれぞれ顔を見合わせる。 「……いや、つーか、そもそも俺ら男同士ってだけでアウトじゃね?」 「ひとのこと言えないよな」 「オレとフレンも血は繋がってねぇけど、似たようなもんだし」 だからたとえ血の繋がった兄弟であったとしても、自分たちの間ではさほど大きな問題にはならない。きっぱりとそう言い切られ、燐はそっか、と呟いた後ふにゃりと笑みを浮かべる。悪魔だ、とそう言っていたが、彼の言動はまったくそうは見えない。ずいぶん可愛い悪魔もいるもんだな、と呟くユーリへリウがこくこくと頷いていたところで、「そういや、前にもちょっと聞きたいと思ったんだけどさ」と口を開いたのはエイトだった。 こちら側の居心地が良いのか、戻るのが面倒くさいのか、しばらくカウンタに居座るつもりらしい。お茶じゃなくて甘いのがいい、と放たれた我儘に燐が用意してくれたリンゴジュースに口を付けた後、「みんなさ、なんでヤられる側なわけ?」と爆弾発言を落とす。隣でごん、とリウの額がテーブルにぶつかる音がした。大丈夫か、と心配そうに眉を顰める燐へ、カボチャ軍師はひらひらと手を振って気にするな、とアピールしてみせる。 「だって、男じゃん。普通、入れる側じゃん?」 それなのに、こうして集まっている四人は同性相手に女役をしているというのだから。何か大きな理由でもあるのかと思って、とエイトは心底不思議そうな顔をしている。悪気がないことは分かるが、だからこそ尚更たちが悪いかもしれない。 ため息をついたユーリは、「だったらまず最初にエイトから理由言えよ」と切り返した。それならば話してやらなくもない、と言われ、えーっと、と黒猫が首を傾げる。 「最初、無理やりヤられて、なんか、そのまま?」 さらりと告げられた言葉は聞き流すには少々物騒かもしれない。無理やりって、と眉を潜めた燐へ、「うん、ある意味ゴーカン」と更にあっさりエイトが言った。さすがにリウも驚いて目を瞠っているが、ひとりユーリだけ「やるなぁ、ククール」と口笛を吹く。 「まぁ、俺がククール怒らせたってのが悪いんだけど、そもそも何が原因なのか全然分かってなかったから、尚更腹立ったんだと思うよ」 いくら怒らせたからといって強姦はさすがに酷過ぎる。そんな相手と何の遺恨もなく、蟠りもなく接していられるだろうか。よく一緒にいられるな、と燐がごく自然な感想を漏らせば、「だって、一緒にいないと俺が困るもん」とエイトは当たり前のように言った。 「寂しいじゃん」 告げられた言葉に偽りは見えず、彼がそれでいいというのなら、他者が口を挟むべきことではないだろう。その後も関係が続いているのだから、むしろ彼らにとってはただの通過点に過ぎなかったのかもしれない。 ほら俺は言ったぞ、とエイトは、ユーリへ視線を向けた。 「そうだなぁ、まあ、あいつが入れてぇ、っつったから、かな。オレはフレン相手なら別にどっちでもいいんだけど」 入れられんのも悪くはねぇし、と続けてみれば、視線の合ったリウが顔を赤くして目を逸らせてしまう。相変わらず羞恥心の強い反応にくつくつと笑いながら、「で、リウは?」と少年軍師へ話を振った。 「お、オレ、は別に……」 ごにょごにょと何やら言っていたが、ユーリとエイトがふたりがかりで宥めすかして吐かせたところによれば、「なんとなく流れで」という答えだった。さすがに流され過ぎじゃないか、と思わず口にしてしまったエイトへ、「だ、だって、なんか、気づいたらこーなってたんだよっ!」とリウが声を荒げる。 「あいつ、一回エンジン回ったら止まらねーの! 抵抗とかできるわけねーし!」 何やら必死にそう言葉を重ねるが、「でも、嫌ってわけじゃねぇんだろ?」というユーリの一言にぴたり、と口を閉ざしてしまった。 「……まあ、それはそう、だけど……」 もにょもにょもにょ、と再び不鮮明な言葉を呟いた後、もうやだ、とテーブルに突っ伏してしまった。ちらりと見える首筋や耳の裏が真っ赤に染まっているため、羞恥の限界なのだろうと分かる。 「じゃあ最後、リンは?」 さすがにこれ以上リウを弄るのは可愛そうになってきたため、エイトが残った小悪魔へ話題を振る。たたたたた、と軽やかに包丁を振るいながら、燐は「腹立つけど、俺んが身長低いから」とあっさり答えた。 「……別に体格で決まるもんじゃねぇと思うけど」 ユーリの言葉に、「でもだって雪男が、」と燐はきょとんとした視線を向ける。 「男同士だったら身長の低い方が女役やるんだ、って」 「…………リン、オレ、レッシンより背、高いんですケド」 筋肉がついていないため体格はレッシンのほうが良いが、それでも今現在はリウの方が若干背が高い。燐の言葉通りならば、レッシンが女役をやらなければならないはずだ。 「…………あれ?」 「リン、お前それ、ユキに騙されてるぞ」 きっぱりはっきりエイトがそう告げてやれば、「――――ッ、あのホクロメガネっ!」と燐は怒りのまま包丁をまな板へ叩きつける。だん、と鈍い音が響き、さすがに何事だ、と向こうのダイニングにいる四人がこちらへ視線を向けた。 「あー、なんでもねぇから気にすんな」 何か問われる前にユーリが手を振ってあしらい、「ぶっちゃけ騙されるリンも悪ぃだろ、それは」と苦笑を浮かべる。常識的に考えたら分かりそうなことだ。自分でもそれが分かっているのだろう、面白くなさそうにぷくぅ、と頬を膨らませた後、「俺、兄ちゃんなのに……」とつまらなさそうに呟きを零す。 「なぁ、そういえばリンとユキ、兄弟って言うけど、何歳違い? 年、近そうに見える」 ようやく羞恥から立ち直ったのか、顔を上げたリウに問われ、「え? 同じ年だけど」と燐は答えた。 「だって双子だし」 さらり、と答えられた言葉に「マジで!?」と黒猫エイトが立ち上がる。 「双子ってあれだろ、一緒に生まれてくるやつ! すげぇ! 俺初めて見た!」 確かにそう頻繁に出会えるものではないかもしれないが、ここまで興奮されても困る。むしろ燐たちの場合は容姿が似通っていないこともあり、「見えない」と言われることの方が多いのだが。 「こら、エイト、そうまじまじ見てやんな。リンが困ってるだろ」 「二卵性双生児ってやつ? 道理で年が近そうに見えるわけだ」 燐と雪男を見比べるエイトの額をユーリが弾き、納得したようにリウが頷いた。赤くなった額を押えながら、「でもだって、すげぇじゃん」とエイトが唇を尖らせる。 「俺、兄弟とかよく分かんないけどさ、一緒に生まれてくんだろ? なんかそれだけですげぇ繋がってる感じがする」 「あ、分かる。家族ってだけでもなんか繋がりがあるみたいだけど、それで双子って言われたらなー」 うんうん、とひとり頷いているエイトへ、リウが賛同の声を上げた。そんなふたりの反応を前に、「うーん、でも、」と燐は困ったように笑う。 「別に双子だからって、雪男の考えてることが分かるわけじゃねぇし」 そんなにすごいものでもないのだ、というつもりだったのだが、「当たり前だろ、それは」とユーリが言った。 「違う人間なんだから、分かる方が逆に怖い」 その言葉に「俺ら悪魔だけどな」と返せば、「そりゃ失礼」とユーリは肩を竦めた。そんな魔女の態度にくすり、と笑って燐は口を開く。 「……双子っつーとさ、大抵『相手の思ってることが分かるの』とか『テレパシーとかあるの』とか言われるんだよな。俺ら悪魔だから頑張ればなんとかなるかもしれねぇけど、さすがにまだ使えねぇし」 「頑張ればなんとかなるレベルなのか、テレパシーって」 思わずリウはそう呟くが、人間でないというのならば、もしかしたらそれくらいは可能なのかもしれない。 「思ってることがあれば、口で言えばいいだろ」 基本的にははっきり言葉にするタイプであるため、ユーリは何でもないことのようにそう言った。「キスしてほしけりゃ言えばいいだけだし?」と続けられた言葉に、「また、ユーリさんは……」とリウが呆れたように顔を赤らめる。もちろんカボチャ軍師がそういったセリフを口にすることを苦手としているなど、魔女は百も承知して言っているのだろう。 そんな会話を耳にした燐は、不意に何かを考え込むように口を閉ざした。しばらく首を傾げた後、「そういや俺、」とぽつり呟く。 「キスしてとか、したいとか、言ったことねぇかも……?」 したい、と思うことがないわけではない。しかしそう思った時には大抵雪男の方からしてくれていたため、わざわざ言う必要がなかったのだ。記憶している限りを思い出せば、ほぼ百パーセントの確率で、燐がしたいときには雪男からしてくれている。 そう言う燐へ、「そりゃすげぇ」とユーリが感心を見せ、「ちょっと見てみたい」とエイトが口を開いた。本当に何も言わずとも雪男が燐の気持ちを察してくれるのか。もしそうなら、燐は否定していたがそれこそ双子のテレパシーというものではないだろうか。 エイトの言葉に、「試してみるか?」と燐がダイニングにいる弟を呼んだ。 ←前へ・後へ→ ↑トップへ 2011.10.17
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