※ED後のお話です。ある意味パラレル。苦手な方はご注意ください。 「+1.その後のお話」を読んでからの方が分かりやすいかもしれません。 彼の思惑・前 ある日突然、エイトがいなくなった。 呪われた王と姫を伴った使命感たっぷりの以前とは違い、今回の旅は彼自身の問題に関するものだ。竜神族と人間の混血児である彼が「完全なる人間に」と望み、竜の血を封印する、あるいは捨て去る、その方法を探す旅。暇を持て余していた、というよりもまた皆で旅がしたいという欲望のまま仲間が集まり、以前と同じメンバ(マイナス王さまと姫さま)での旅。しかし今すぐに封印しなければならないというほど切羽詰っているわけでもなく、むしろ彼自身が「時間はたくさんあるから、ゆっくり行こう」と言うくらいのんびりとした旅だった。 しかしだからと言って、仲間のうち誰にも、何も言わずに彼がいなくなることなど。 「……ありえそうで嫌なんだよな」 「一体何の悪戯かしら」 宿屋の一階に設けられた、宿泊客が談話するスペース。そこにあるゆったりとしたソファに腰掛けたククールが言うと、その隣に座って腕を組んでいるゼシカも深く頷いて相づちを打つ。「何かあったんじゃないのか」と騒いでいるのはヤンガス一人で、彼は先ほどから談話室を行ったりきたり忙しない。 「何かって何よ」 「散歩してる途中にどこかで怪我したとか、誰かに攫われたとか!」 「妙なもの買いに行ったとか、何か面白いものを見かけてついて行ったとか?」 ゼシカの問い掛けにヤンガスが答え、続けてククールも己の考えを披露する。それを聞いた彼女は「私はただの気まぐれだと思うわ」と肩を竦めた。そして、 「せめて置手紙ぐらい残していけばいいのに」 とぽつりと呟いて、自分の発言にはたと何か気が付いたようだった。 「ちょっと待って? ねぇ、あのエイトのことよ、たとえ突然姿を消すにしても、『探さないでください』の置手紙ぐらい残していきそうじゃない?」 ゼシカの言葉にククールも少し考えて「確かに」と頷いた。 「エイトのことだ、お決まりはきちんと踏むよな。探すなって書いてるのに、その下に自分の居場所の地図とか『夕飯には帰ってきます』とか書いてそうだよな」 「置手紙、なかったわよね?」 朝エイトが姿を現さないのを不思議に思ったククールが、既に彼の部屋を訪ねている。もぬけの殻でベッドはきちんと直されていた。サイドテーブル、小さな丸テーブル、どこにもメモらしきものがあった覚えはないが。 もう一度見てくる、と立ち上がったククールに続いて、他の二人もエイトの部屋へと向かった。 ククールの記憶は確かだったらしく、やはり置手紙などどこにも残されていなかった。相手は何しろエイトなのだ、真っ白い紙にレモン汁で伝言を残すこともやりかねなかったが、紙自体が室内には一枚もなかった。 「ちょっと、これは変かもしれないわね。荷物まで全部置いてあるわ」 「だから、さっきから言ってるじゃないでがすか! きっと兄貴は何か大変な目に合ってるに違いないでげすよ!」 ああ、兄貴、アッシはどうしたら! と天上を仰いでいるヤンガスを宥めながら、ふむ、と唸ってククールは前髪をかき上げた。 「ゼシカ、風の帽子ってあったっけ?」 「確か持ってたはずよ、ほら」 ごそごそと部屋に置いてあったエイトの荷物から風の帽子を取り出す。それを受け取って「オレはルーラで探し回るから、お前はこれな」とヤンガスに手渡した。 「私はここで待機ね。疲れたら言って。交代するわ」 言わずともククールの思考を分かってくれたらしい。自らそう言ってくれたゼシカに頷いて、「エイトがくれた休息日だと思ってたらいいさ」とククールは笑みを浮かべた。 それからは自分たちの勘だけを頼りに世界各地、エイトを探し回った。 まずはトロデーン城へ。トロデ王やミーティア姫に心配はかけられないので、彼らには顔を合わせないように城内を探し回り、聞き回ったが手がかりは得られなかった。 パルミドの町はヤンガスに任せ、ククールはアスカンタへと飛ぶ。城内から城下町まで探し回り、人に聞いて回り、ついでにと元モグラの盗賊団アジトにも足を伸ばす。 トラペッタへ飛んだとき、ククールはふと占い師のことを思い出した。よく当たる占い師がいるという話は他の仲間から聞いていたが、実際に会ったのはラプソーン決戦の前の一度だけだ。印象が薄かったためほとんど覚えていなかったのだが、当たるというのならエイトの行方を尋ねてみてもいいかもしれない。 おぼろげな記憶を頼りに占い師の家へと向かい、話をすると彼は少しだけ顔を潜めて、「あいつについてはあまりうまく結果が出ないのだがね」と言った。 「何でだ?」 「知らぬよ。もしかしたら人とは違うのかも知れぬ」 端的にそう表現した占い師にどきりとしつつも、「それでもいいから占ってもらえねぇか」と頼み込む。彼は気が進まぬようにゆっくりと水晶玉に手をかざしたあと、「一度戻ってみるとよい」と助言してくれた。 「戻るって、どこに?」 「あいつが姿を消した場所だ」 そこには今ゼシカがいるはずだ。もしかしたら戻ってきたということだろうか。 それならそれで今日一日とククールヤンガスの行動が無駄になっただけで、あとでみっちりエイトに説教すればいい。 ククールは礼を言い、代金を置いて家を出ようとすると、「金は要らん」と投げ返された。その態度を見て、ユリマとかいう娘が申し訳なさそうに謝ってくる。そんな彼女へいつものようににっこり笑顔で対応し、「娘に近づくな」というお叱りを背にしながら家を出た。そしてすぐさまゼシカの元へとルーラで飛ぶ。 既に空は夕闇に覆われ、エイトが姿を消してほぼ一日が経とうとしていた。 ゼシカは彼らが出発したときと同じように談話室のソファに腰掛けて本を読んでいた。ククールの姿に気が付くと「見つかった?」と本を閉じて尋ねてくる。その様子に、まだエイトがここに戻ってきてないことが知れた。 「いや。トラペッタの占い師に一度戻ってみろ、って言われてさ」 事情を説明すると、彼女はああ、と頷いて「ルイネロさんね」と呟く。 「あの人の占いは本当によく当たるらしいから、もしかしたらそのうち戻ってくるってことかしら」 二人で顔をあわせて首をひねっていたところへ、たった今戻ってきたらしいヤンガスがなにやら白いメモを手にこちらへと走り寄ってきた。 「た、た、たい、大変でがすっ! あ、兄貴が、エイトの兄貴が!」 「見つかったの?」 ゼシカの問いにぶんぶんと首を振って、持っていたメモを彼女に押し付けた。ヤンガスに思い切り握りつぶされたのだろう、くしゃくしゃになったメモを丁寧に広げて、目を落とす。 「『貴様らのリーダは預かっている。 パルミドにて待つ。』」 最後にはなにやら署名らしきものがしてあったが、ずいぶんと崩れていたためゼシカには読み取れなかった。 「兄貴、やっぱり誘拐されてたんでげすよ! は、早く助けに行かないと兄貴の身が……」 騒ぐヤンガスの隣で、ククールが手を差し出してくる。しわくちゃのメモを彼に渡すと、読み始めたククールの目がすぐに大きく開かれた。 「どうかしたの?」 その表情の変化にゼシカがそう尋ねると、彼は「いや」と小さく呟いて「まさかな、でも……」と口ごもった。 「ク、ククール、そいつに何か、心当たりでもあるんでがすか!?」 あるのなら今すぐ吐け! と鼻息荒く伸ばされた腕を避けながら、ククールははぁとため息をついた。 「心当たりってかな、これ、最後の『M』って書いてあるんだけどさ」 「M? イニシャルがMの知り合いなんて……あ、ミーティア姫?」 「いやいや、この筆跡、すっげぇ見覚えあるんだわ」 「だ、だから、それは誰……」 ヤンガスの言葉を遮って、ククールは「兄貴」と答えた。 「……って、え? 兄貴って、えと、マ、マルチェロさん?」 ゼシカが驚いたように尋ねると、ククールは嫌そうな顔をして頷いた。 ククールと彼の兄、マルチェロの確執はこの目で見ているのでよく知っている。聖地ゴルドでの一戦の後、ククールに助けられた彼が今どこにいるのかゼシカは知らない。もしかしたらククールは何か知っていたのかもしれないが、彼が進んで話すことではないだろう。 「あー、何だろう、兄貴、エイトみたいなのが趣味だったのかな……いや、それはそれでうん、まぁ別にいいような気もしなくもないけど……」 おそらく彼も突然の身内の登場に驚いているのだろう。支離滅裂なことを呟いているククールの胸倉を、ヤンガスが乱暴に掴んだ。 「別にいいわけないでがす! エイトの兄貴に何かあったらどうするんでがすかっ!!」 ヤンガスがどれだけエイトを慕っているのか、間近で見ている彼らにはよく分かっていた。これだけ心配するのも無理はないだろう。エイト自身も心配ではあるが、このままではヤンガスの方が先に参ってしまいそうだった。 そんな彼を宥めながら、ゼシカはククールに目で「どうする?」と尋ねる。多少混乱から立ち直ったらしい彼は、小さくため息をついて頷いた。 「悪い、ヤンガス。ここはオレに任せてもらえねぇか?」 考えてそう口にすると、ヤンガスは何をバカなことをと言うかのように眉を跳ね上げる。彼の文句を遮って、ククールは理由を述べた。 「さすがに兄貴もエイトをどうこうするつもりじゃない、と思う。ひとまず先にオレが行って、話をさせてもらいたいんだ」 頼むよ、と珍しくも殊勝な言葉を使うと、人情スキルマックスのヤンガスには非常に有効だったらしい。ぐ、とうめいたあと、「で、でも、兄貴に何かあったら……」と小さく口にする。 「だから、とりあえずパルミドまで一緒に行こう。オレだけ先にあいつと話をさせてくれたらいいから」 何かあったらすぐにお前らのところに来る。 そう言って、ようやくヤンガスも納得したらしい。それならば、と頷いた彼からゼシカに目をやると、彼女も「危ないようだったらすぐに助けを呼ぶのよ」と子供に言い聞かせるようにして言われてしまった。 「たぶん大丈夫だと思うけどね」 マルチェロさん、むやみに人を傷つける人には見えなかったし。 そう言ってくれた彼女に微笑みかけてから、とりあえず皆でパルミドへ向かうことになった。 後編へ→ ↑トップへ 2005.03.08
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