キミの笑顔 ― monochrome ― 2 遺跡の中でのレベル上げはさすがにリスクが高すぎるため、しばらくは遺跡のある島で力を付けることにした。魔物と戦い続け、己の基礎体力、魔力を上げていく。仲間の技が発動するタイミング、身のこなしを体で覚えて自然に連携が取れるまで何度も何度も戦闘を繰り返した。 そんな日が四日続いた日の夜。 「さすがに連続はキツイよな。明日は一日休みにしよう」 サザンビークに宿を取っている一行は、戻ってくると同時にそう提案したエイトに無言のまま頷いた。町で待機していたトロデ王も「適度な休息は必要じゃからの」ともっともらしく頷いている。 おいしいものを食べたい、というゼシカの希望にそって皆で夕飯を食べに向かう。適度に腹が膨れると今までの疲労がどっと押し寄せてきたのか、ゼシカとヤンガスはそのまま宿屋へと戻ってしまった。ククールも酒場へ向かおうか悩んだが、体力のなさは自覚しているため今日は大人しく休むことにする。当然エイトもそうするだろう、と思っていたのだが、彼にしては珍しく酒場の前で足を止めた。 腕を組んで首を傾げ、迷ってるその様子にどうした、と声を掛ける。 「いや、ここのところ戦闘続きで神経が高ぶってるのか、ろくに寝れてなくて。寝酒でも買って帰ったほうがいいかなって」 その言葉にククールは軽く眉を潜めた。ここのところ、というのはどのくらいの間なのか、ろくに寝れないとはどの程度なのか、突き詰めたかったが誤魔化されるのは分かっていたので、「でもお前酔わないだろ」と口にする。 エイトは酔わない。本人がそう申告しているし、パーティメンバも彼が酔っているところを見たことがない。体質的にアルコールに強いのだろう。 「そうなんだけどさ。気分の問題」 わーっと酒を飲んで寝てしまえば少しはマシかな、って。 続けられた言葉に思わず、「じゃあ、オレも付き合うよ」と答えてしまったククールを責める人間はいないだろう。 やはり一人で飲むのは嫌だったらしく、ぱぁ、と表情を明るくしたエイトは、「おいしいのときついの、選んで! 持って帰って飲もう」とククールの腕を引いて酒場へと入った。 ゆっくりと休めるように、と宿屋は一人一部屋確保している。今日はエイトの寝つきが良くなるために飲むので、必然的に宴会場所はエイトの部屋。一つだけあった椅子にはククールが腰掛け、エイトはベッドへと座る。隅にあった丸テーブルを移動させ、酒とグラス、つまみを適当に広げて置いた。 「なんか、久しぶりじゃね? ククールと二人で飲むのって」 乾杯、とグラスを合わせてぐっと、半分ほど喉へ流し込んだ後、エイトは笑ってそう言う。反対にククールは一口含む程度で抑えている。エイトのペースに付き合っていては、先に潰れてしまうのが目に見えているからだ。 「前はしょっちゅう二人で飲んでた気がするけど」 エイトたち四人は基本的に宿屋ではツインを二部屋取る。そのほうが財布に優しいからだ。その際エイトとククールというペアで泊まることもあり、そうなったときに今のように寝酒と称して二人で酒を飲むこともあった。ここのところ二人が同室となる機会がなかったわけではないが、確かにエイトの言うとおりこうして二人でゆっくりと酒を飲むのは久しぶりだ。 「まあ、そうだな。最近急に魔物が強くなったってのもあるんじゃね? オレ体力ないし」 「わー、ククール、それ自分で言ってて空しくなんない?」 「お前が自分で『俺馬鹿だから』って言ってるときと同じ気持ちだと思えばいい」 「すっごい分かりやすいたとえだけどムカつくな、おい」 眉を潜めたまま残りの酒を一気に飲み干す。差し出された空きグラスへ素直に酒を注ぎながら、ククールは「でも」と言葉を続けた。 「よく考えたらドルマゲスさえ倒せば旅も終わりだ。こうしてエイトと飲むの、最後になるかもな」 その言葉にエイトが「ああ」と小さく頷いた。 「そういえばそうだな。ドルマゲスの顔にばっかり気がとられて、倒した後のことは考えてなかった」 「顔はそっとしといてやれよ、顔は。ありゃあ本人の所為じゃねぇだろ」 個性的な顔をしていることは認めるが、生まれたときに容姿は選べないのだから仕方ない。 「あの青さは本人の所為だろ。なあ、あれ塗ってんの? それともああいう色なの?」 「つかオレ、そんなに間近でじっくり見たことねぇよ、あいつ」 「あ、そうか。俺としては是非ともああいう色の肌であってほしいね」 「そりゃ、ボスクラスの敵が毎朝起きるたびにドーラン塗ってたら萎えるな」 「『このメーカーのドーラン、斑ができちゃうのよね』とか『化粧代も馬鹿にならないわ』とか?」 「なんでオネエ言葉なんだよ。いつからそうキャラになった」 「でもあいつそれっぽくね? 髪の毛長いし」 「髪の長さだけで言えばオレもじゃん」 「…………ククール、オネエキャラだったんだ」 「ぅおい、人を勝手にキャラ付けすんな」 「いやいや、それくらい個性的じゃなきゃな。カリスマってだけじゃあな、やっぱり」 「何が言いたいんだ、お前は」 アルコールが入っていようがいまいが、二人の会話などこのレベルである。「何の話してたっけ?」とエイトが首を傾げ、「ドルマゲスの一月の化粧代についてだろ」とククールが答える。 「ぜってー違うし。ああ、そうそう、倒した後の話だ」 二杯目のグラスを軽く空け、エイトは皿の上に並べたチーズを一欠けら、口へ放り込んだ。 「俺はトロデーンに戻るにしても、みんなはどうするんだろ。ゼシカは家に帰るかな」 「帰ってもあれはまたすぐ家出するぞ」 ククールはゼシカと母親の確執を直接的に見ているわけではないが、彼女の言葉から何となく想像はできる。親子といえど根本的に反りが合わないこともあるのだろう。 「ククールはどうすんだ?」 その問いにこくり、とアルコールを飲み込んでから、「どうするかな」と笑みを浮かべる。 「まあ適当に考えるよ。しばらくはふらふらするだろうけど」 追い続けてきた相手を目前にして、その後のことを考えないわけではない。具体的にどうしたい、というものはないが、とりあえずマイエラには戻らないだろう、とは思う。唯一の血縁者である彼のことは気になるが、もう顔を合わせないほうがお互いのためなのかもしれない。 「ならたまにはトロデーンに遊びに来い。そうしたらまたこうして飲めるだろ」 笑って言うエイトに、ククールも「いいな、それも」と答えた。 「ヤンガスは……また山賊?」 「そこは兄貴分として止めてやれ。つか、あいつがエイトから離れることはなさそうだけどな」 「うーん、俺の稼ぎでヤンガス食わしてやれるかな。ヤンガス、家で家事してくれるかしら」 「帰ってきたら白いエプロン姿のヤンガスが出迎えてくれるのか」 「『お帰りなせぇ、兄貴。先に風呂にするでげすか? 飯も出来てるでがすよ。それとも……』」 「おい、どうしたエイト。続けろよ。その先があるだろ」 「……ごめんなさい、俺が悪かったです」 グラスをテーブルへ置き、ぱたり、とベッドへ横になるエイト。自分の想像にダメージを受けているのか、顔を覆ってしくしくと泣きまねを始めた。その情けない姿に堪らずククールが吹き出すと、エイトも同じように肩を震わせて笑っている。しばらくそうして笑っていたところで、不意に両手を広げてベッドの上に仰向けになったエイトが、「でも、俺もそのうち結婚とかするのかなぁ」と呟いた。 ←1へ・3へ→ ↑トップへ 2008.04.12
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